最低な君は、今日も「大嫌い」を口にする


私を睨みつけて離さない目は、一切そらされることなく私の返事を待っている。
息さえできないこの状況に、思わず頷いてしまいそうになった。

だけど。

「む、無理…いやだ」

精一杯出した拒否の声は震えていて小さな声だった。

そんな声はこの至近距離だと市ノ瀬君に届いていたらしい。
一瞬目を見開いて驚いたような顔をした市ノ瀬君は、

「…あっそ。もういい」

そう言って私の腕を離した。

ばくばくと大きな音を立てる胸を震える手で押さえつけて、細い息を吐く。
吸い込んだ空気は冷たい。

帰ろう。
結局市ノ瀬君が何をしたかったのか分からないまま、そそくさとカバンを手に取ろうと後ろを向いた時だった。

「ーー?!!…ふっ…んーー!!」


思い切り肩を掴まれて強引に振り向かされたと思うと、乱暴に唇を塞がれる。
驚いて開いた目に映ったのは、閉じられたまぶた。
噛み付くように私の唇を塞いだのはもちろん市ノ瀬君で。

「んー!…っ」

いやだ。

なんでこんなこと。


混乱する頭で必死に抵抗して、やっと解放された時には肩で息をしていた。

「なんで…?」

思わず口に出てしまった。

「なんでこんなことするの?」


目の淵に涙が溜まる。
こんな奴の前で泣きたくない。

ぎゅっと力を入れた時だった。




「ーーー嫌いだから」


市ノ瀬君は冷たい声で言った。

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