最低な君は、今日も「大嫌い」を口にする
「…なんか隈すごくねえ?」
そう言ってそっと私の目元を指でなぞった千藤君に、反射的に身をすくめた。
お昼休憩を一緒にとるのが日課になってしまった私たちは、屋上は流石に寒いからと屋上へ続く階段の踊り場でお弁当を広げていた。
私の反応を見て慌てたように手を引っ込めて、
「ごめん!キモいよないきなり触ったりして…」
眉を下げてしゅんとした顔をする千藤君。
千藤君が悪いわけではない。
ただなんとなく、ビクついてしまっただけだ。
「いやちがうから、大丈夫だから!
謝らせちゃってごめんね」
そう言ってなんとか笑ってみせるけど、千藤君の顔は晴れない。
「…なんかあったの?」
遠慮がちに聞いてくる千藤君に、あの日のことがフラッシュバックする。
強引に掴まれた腕と、無理やり振り向かされたこと。それから、ゼロになった距離。
思い出しただけで血の気が引いていく。
「…ほんと、なんでもないから。大丈夫」
それだけ言ってお弁当を手に取る私を心配そうな目で見ていた千藤君は、大きな手で私の頭をかき混ぜた。