最低な君は、今日も「大嫌い」を口にする
自分の傘を差したまま、走って市ノ瀬君の背中に追いつく。
そしてそっと傘の中に市ノ瀬君を入れた。
下から見上げた市ノ瀬君は驚いたように目を見開いた。
「…なにしてんのアンタ」
「やっぱり差しにくいと思って…
片手だと不便でしょう?私も一緒に帰るよ
市ノ瀬君が怪我したの私のせいだもん」
市ノ瀬君のことは嫌いだ。
理解もしたく無い。
だけど、さっきは助けてくれたから。
だから、今の私の行動は正しいと
そう思う。
頑として市ノ瀬君を送る、と言う意思を込めて傘を持つ手に力を込めた時だった。
ふわりと掠めた甘い匂い。
傘に当たる雨の音、
それから少し早い市ノ瀬君の心臓の音。
市ノ瀬君の肩越しに見えたのは、私のビニール傘がゆっくりと落ちていく様子だった。
背中に回った片方の腕に強く抱きしめられ、むせるくらいに市ノ瀬君の甘い匂いがして、それから少し湿った匂いがして。
どんどん冷たく濡れていく髪も、制服も、気づくことが出来ないくらいに頭が真っ白になる。