最低な君は、今日も「大嫌い」を口にする


病み上がりってなかなかに不便だ。

自慢じゃないけどあまり体調を崩すという経験をしたことがなかったせいで知らなかった。身体はまだいうことを聞かないし、気を抜くと力が抜けるような感覚に陥る。

まだ少しだけ咳も出るし、今日はさっさと帰ってゆっくり休もう。

そんなことを考えてお手洗いから出た瞬間のことだった。

不意に飛び出してきた何かによって私の視界は遮られ、思い切り肩を引き寄せられて壁に追いやられる。
その瞬間香る、甘い香りにはっとした。


「市ノ瀬、くん?」

「なんだ、生きてたんだ田宮さん」

私に覆いかぶさる身体が憎まれ口をたたく。
その声はなんだかいつもよりも元気がなくて、少し掠れている。

「え?なんで…今日お休みじゃ、」

「田宮さんの病み上がりの苦しそうな顔拝みにきたんだよ、案の定パンパンに顔浮腫んでて超ブッサイク」


そう言っていつものように鼻で笑った市ノ瀬君に、何故だかいつもみたいな怒りが湧かない。
まさか心配してくれたのかな、なんて。

そんな訳ないか。

「…市ノ瀬君も風邪ひいたの?」

「べつに。大したことないし」

言いながらもけほ、と小さな咳をこぼした市ノ瀬君はそっと私から離れる。
甘い匂いが少し遠くなった。



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