最低な君は、今日も「大嫌い」を口にする
大したことないと言いながら喉をおさえる市ノ瀬君を見ながらあることを思い出す。
制服のポケットを漁れば、やっぱりあった。
「市ノ瀬君、これ」
彼の手に渡したのは桃ののど飴。
ピンク色のパッケージをじっと見つめると、嫌そうに眉を寄せた。
「なにこれ、気休めにも程があるだろ」
「これ食べやすいから、ちょっとは喉の痛みマシになると思う」
舌打ちをした市ノ瀬君は大人しくポケットにのど飴をしまう。
やけに素直だ。
「田宮さんてさあ、本当にバカなの?」
「…え、」
「あの雨の日のこと
なんで何も聞かないわけ?無かったことにしてんの?」
言いながら苛立ったように再び私を壁に追い詰めた。
不機嫌そうに細められた目をじっと見ているうちに、あの日のことが思い出される。
やたらと速かった市ノ瀬君の鼓動も、
強すぎて痛いくらい力の込められた腕も。
「…なんで触れないの?
不自然だ」
そんなの私だって困ってるのに。
突然あんなことされて、市ノ瀬君に振り回されて。
なんで市ノ瀬君が怒るの?
むしろ怒りたいのは、
「…それはこっちのセリフなんだけど!」