クールなアイドルの熱烈アプローチ
「あー、笑った笑った!陽菜ちゃんって面白いね。
まだ初々しいし、なんか動きが小動物っぽいし」

まだ笑いが収まりきらないらしい拓也を尻目に、勇人はスタッフと立ち位置や動きの確認をしている陽菜を見ていた。

「どう?勇人が気になってた陽菜ちゃんは」

いい感じ?とニヤニヤしながら問いかけてくる拓也に勇人は不審な目付きで見やる。

「……いつ、俺が気になってるって言った?」

「え?だって勇人、いつも人の名前なんて覚えないじゃん。
よく顔合わせるアイドルグループの女の子達の顔や名前なんて全く覚える気配すらないし。
なのに、初めてだろ?勇人が顔も名前も覚えて名指しでPVに出演依頼するの。
しかも、この世界でまだ半年しか活躍してない新人モデルだよ?俺、あの時ビックリしちゃったよ」

訳知り顔で語る拓也から再び陽菜に視線を向けると、何やら慌てた様子で台本を抱えて堀原に詰め寄っている姿が見えた。

勇人は人の顔と名前を覚えるのは苦手だった。

アイドルグループなんて皆同じ顔に見えてしまうのだけれど、半年前に陽菜のデビュー雑誌を偶然目にした時から、何故か勇人は陽菜を忘れられなくなっていたのだった。

それが何故なのか気になりつつも答えは見出だせず、今回の仕事で何か分かるだろうかと思いながらも勇人は陽菜と堀原のいる場所へと足を向けた。
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