クールなアイドルの熱烈アプローチ
『今日は外に出てどうだった?誰かにバレたりしなかった?』

いつもより早い時間にかかってきた勇人からの電話に出てみれば何よりも先にそう聞かれて、よほど心配されていたことに陽菜は申し訳なく思った。

「ご心配おかけしてすみません。
誰にも気付かれなかったので大丈夫ですよ」

『そうか……よかった』

安心したような声色に陽菜は今日一日不安だったことや、途中上手く話せなくて自己嫌悪に陥りそうになっていた事が吹き飛んでしまったようだった。

ーー心配してくれてる人がいるって分かって嬉しく感じて……私って単純だったんだなぁ……。

『明日、昼には戻れるから……一緒にどこか食べに行こうか』

「はい、楽しみです」

待ち合わせの時間と場所を決め、おやすみの挨拶をして通話を切る。
陽菜は勇人が貸してくれた部屋に新しく運ばれたベッドの上にパタリと後ろから倒れこんだ。

ーー今日は知らない人ともたくさん話して、緊張して疲れた……。

英理に連れられていった廊下での出来事を思い出す。
大堂の冷たい目に見下し嘲笑う顔。
言葉は鋭利な刃物となって陽菜の心を深く抉り、今も尚癒えてはいない。
胸の辺りの服を強く握り締め体を丸くする。

ーー誰かに傍にいてほしい……誰かに……。

「こ、しな……さん……」

無意識に呟いた声は陽菜自身も聞き取ることがないまま、静寂の中消えていった。
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