クールなアイドルの熱烈アプローチ
英理に騙されて大堂と二人きりにされた。
会ったのは昨日で二回目で、あの話を嘘だと言う証拠もなければ真実だと言う証拠もない。
英理を信じきれるような信頼もまだない。

けれど、あの時の涙は?
強い意思のこもった眼差しは?
三人で話し合った今後の行動は……?

考えれば考えるほど、分からなくなっていく。
何を信じればいいのか分からなくなっていく。

“誰かの言う通りにしか動かないような子、扱いやすくて好きなんだけどなー?”
“人の言う通りにしか動けないんだろ?”

「っ!!」

急に浮かんできたあの時の大堂の言葉に陽菜は口を覆い、あがりそうになった悲鳴を咄嗟にのみ込んだ。

顔は真っ青で血の気がどんどん引いていき、手足が冷たくなり震え出す。
冷や汗が背中を伝い始めた時、陽菜の様子を見ていた勇人が異変に気付き席を立った。

「店を出よう。歩ける?」

陽菜は無言で頷き席を立つが、その足元は覚束なかった。

先に会計を済ませた勇人は陽菜の肩を抱き、自分に寄りかからせるようにして店を出るとタクシーを探した。
運よくすぐにタクシーが掴まり、先に陽菜が乗せられようとした瞬間、強いフラッシュが二人を狙った。

「……撮られたな」

小さく呟いた勇人の言葉に陽菜はさらに顔色悪くして目を大きく見開いた。
勇人は陽菜を乗せた後に素早く乗り込み、運転手に、適当に走って、追いかけてくる車がいたら撒いてくれ。と指示を出し、震える陽菜を外から顔が見えないように抱きしめた。

……耳鳴りのような騒がしい音がする。
これは、あのロケの時の喧騒だ。

“信じられないっ!”
“二人は付き合ってたの!?”

あの時と一緒で、抱きしめられているから手を動かして耳を塞ぐことも出来ない。

“これで、もう君は終わりだ”

大堂のその声が聞こえた瞬間、陽菜の意識は途絶えた。
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