クールなアイドルの熱烈アプローチ
「堀原さんっ!PVの内容、隠してましたね!?」

台本を握りしめ必死の形相で堀原に問い詰める陽菜は、端から見たら大型動物に威嚇する小動物のようだった。

「隠してはいない。
黙っていただけだ」

「それを隠してるって言うんですーっ!!」

たった今初めて渡され、スタッフに説明された台本はKaiserの二人と入れ代わり立ち代わりダンスをするといった内容だった。

「私、ダンスなんて踊れないですし、そもそも……!」

「どうした?」

堀原への必死の訴えかけの途中に聞こえた声に慌てて振り返ると、いつの間にか近くにいた勇人が陽菜をじっと見ていた。

「何か問題があったか?」

「あ、えっと…その……」

陽菜はさっきまでの勢いがなくなり、どんどん声が小さくなると同時に顔も目線も下に下がってしまう。
そんな陽菜から勇人が堀原に視線を移すと、堀原は小さく溜め息をついた。

「すみません。
秋村はダンスのシーンに不安があるそうです」

「不安?」

訝しげに眉を潜めた勇人に気分を害したかと思った陽菜は慌てて口を開いた。

「そ……その、私、ダンスなんて踊ったことないですし……。
それに、ダンスって手を繋ぐんですよね?
私……お父さんと弟くらいしか手を繋いだことがなくて……その、馴れてなくて……」

真っ赤になりながら目線だけを勇人に向ける。
自然と上目遣いとなったその表情に、何故か勇人は目を丸くしていた。
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