クールなアイドルの熱烈アプローチ
「なーんだ、そんなことなら大丈夫!
俺達をその弟君と思ってくれたらいいよ!」

ひょこっと現れ勇人の肩に腕を置き茶目っ気たっぷりにウィンクする拓也に陽菜はさらに慌てて首を振った。

「そ、そんな滅相もない……とても弟には見れないですよっ!」

スーパーアイドルグループのKaiserを相手にそんな風に見たとなったら全世界の女性を敵にしてしまう気がして陽菜は拓也の提案を拒否するが、いつの間にか表情が戻っていた勇人はじっと陽菜を見てから不思議そうに首を傾げた。

「俺達と手を繋ぐのは嫌?」

静かな口調に陽菜は静かに顔を横に振ると、ゆっくり言葉を紡いだ。

「嫌では、ないです…。
ただ、すごく緊張しちゃって……」

「嫌ではないなら頑張ってみてほしい。
この曲には君の力が必要だ」

真っ直ぐ見つめてくる勇人と笑顔の拓也。
二人の眼差しを陽菜はおずおずと受け止める。

ーー私の力が必要……。

勇人に言われた言葉を心の中で繰り返し、陽菜はそっと目を閉じて小さく深呼吸する。

人見知りもあがり症も簡単には治らないし、撮影前だと言うのに今も緊張しすぎて陽菜の心臓はドクドクとすごい音をたてている。

ーーそんな、おどおどするばかりの私の力を必要としてくれるなら……。

暫くして目を開けた陽菜の顔は先程までの小動物のような頼りない姿ではなく堂々としていた。
陽菜はしっかりとした眼差しを勇人と拓也に向けて徐に口を開いた。

「役不足かもしれませんがやってみます……やらせてください!」

さっきまでの雰囲気から一転し、突然頼もしい雰囲気へと変わった陽菜に三人は柔らかい笑みを浮かべた。
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