クールなアイドルの熱烈アプローチ
会場はさらにざわついた。
早替えで現れた陽菜はまだおどおどし、不安になりながらも胸の前で両手を握り、曲に合わせてさらにゆっくりと前へ進んだ。

ねえ、さっきまであの一般人の人がいたよね?
え?あれって、まさか陽菜ちゃん?
じゃあ、勇人がテレビで言ってた本気の人って……。

誰もが顔を見合わせながら口々に話し合っていると、ステージでは拓也が陽菜に手を差し伸べ一礼し、PVと同じように陽菜をエスコートしながら楽しそうに踊りだした。

「ごめんね、ビックリしたよね?」

クルクル回りながら歌の合間に小声で話しかけてきた拓也に陽菜は無言で頷いた。

「本当にごめん。
でも、まだ驚くことあるから頑張って」

眉を下げ、困ったような顔をしている拓也が陽菜と踊っている手を離す。

ーーこれ以上何を驚くことがあるんですか……。

今でも驚きの最中にいるのに。と、思わずぼやきそうになったが後ろからグイッと腰を引かれ、一瞬抱きしめられた。
目を丸くしているとすぐにその温もりが離れたので、慌てて振り返ると先程の拓也と同じように陽菜に一礼をとる勇人がいた。

手を取られ踊りだすが、エスコートされているとしてもPVと同様の激しいダンスのステップは複雑で早く、足がもつれそうになるがフワフワ揺れるロングドレスが上手いこと危うい足元を隠していて観客には見えない。

勇人の一瞬たりとも反らされることのない真剣な眼差しに戸惑いながらも踊りきり、陽菜は肩で息をしながらダンスが無事に終わったことに安堵した。

PVでは勇人が陽菜の元を離れ拓也がその隣に並んだ瞬間に振り返り、二人が陽菜に手を差し出すはずだったが勇人は躍り終わった後も陽菜の手を握ったまま離さない。

やがて歌も曲も終わるが、動かない勇人に陽菜も観客も不思議に思い、じっと固唾を飲んで勇人を見ていた。
< 176 / 242 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop