クールなアイドルの熱烈アプローチ
「陽菜ちゃんって最初のおどおどした雰囲気と違って、本番になると急に雰囲気変わるんだねー。
あれは一種の才能なのかな?」

陽菜が出ていった後の扉を見つめたまま楽しそうに話す拓也に視線を寄越さず、勇人は今も自分の手を見つめていた。

その手はさっきまで撮影のために陽菜と繋いでいた手。
未だに陽菜の手の柔らかい感触が残っているようで、勇人は恥ずかしそうに踊る陽菜の姿を何度も思い返していた。

「勇人?どうした?捻ったか?」

普段と違う勇人の様子に気付いた拓也の問いかけに小さく首を振り、手をギュッと握り締めて顔を上げた。

「……戻る」

「え、もう戻るのか?もう少しゆっくり……あっ、待てよ、勇人!」

一言だけ発し、直ぐ様スタジオを出ようとする勇人の後に慌てて続く拓也。
普段の冷静で落ち着きのある勇人にしては珍しい動きだった。

「なんだ?やっぱ怪我したか?それとも具合悪い?」

「いや、大事ない。ただ……」

「ただ?」

「彼女を見てから落ち着かない。
彼女に触れてから動悸がするし、一緒に踊った時の表情が頭から離れない」

そう言いながら胸の辺りを鷲掴みした勇人に、拓也はあまりの驚きに零れんばかりに目を見開いて言葉を失っていた。
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