クールなアイドルの熱烈アプローチ
突然の出来事に陽菜が固まっていると、相手は自分のマスクに手をかけようとそっと右手を上げる。
その動きに陽菜はハッと我に返ると同時に一目散に駆け出した。

「待っ……!」

相手は何か言おうとしていたが、陽菜はそれどころではなかった。
何せ陽菜は今、モデルの秋村陽菜とは全く違う格好なのだ。

なのにも関わらず、それを瞬時に見破った顔を隠した男。

ーー怖い……!!

あまり運動神経の良くない陽菜でも、この時ばかりは普段では信じられない程の速さで走った気がした。
荷物の重さに振り回され上手く走れずに足がもつれそうになりながらも、息を乱しながら懸命に。

家に戻ったら住まいを知られる危険がある為、自宅とは逆方向の公園に向かうが、その後どうしたらいいか分からなかった。

ーーどうしよう……そうだ、朝陽!!

朝陽に連絡して助けてもらおう!そう思った陽菜は速度が落ちながらも鞄に入れていたスマホを取ろうと手を差し込みつつ視線を鞄に移した。

その時ーー。

「きゃっ……!」

公園の入り口付近に小さな段差があり、それに気付かず足を引っ掻けた陽菜はバランスを崩した。

ーーぶつかるっ!!

近付いてきた地面への衝撃に備えて固く目を閉じると、突如後ろから陽菜の腰に逞しい腕が回され倒れかけた体を支えられた。

「大丈夫か?」

「あ……はい。ありが……っ!!」

助けてくれた人に話しかけられ、振り返りながらお礼を言おうとしたが、その声は途中で止まり陽菜は息をのんだ。

体に手を回し助けてくれた人物は先程のコンビニで自分の正体を見破り、怖くなって必死に逃げていた顔の見えない男性だった。
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