クールなアイドルの熱烈アプローチ
「驚いた」

「え……?」

「あんな場所で会うと思わなかったから」

「あ、そう……ですね……。私も……」

ーー驚きました。いろんな意味で。

テレビで口数が少ない勇人は、プライベートでも口数が少ないらしい。
人見知りの激しい陽菜は一度会話が途切れると沈黙してしまうし、親しい人以外に自分から話しかけることも出来ない。

会話が続かずお互い無言でいたのだけれど、どうしても聞かなければならないことがあって、陽菜は必死に勇気を振り絞り口を開いた。

「あ、あの、越名さん……。
お聞きしたいことが……」

「何?」

「えっと、私、変装してるつもりだったんですけど……どうして分かったんですか?」

そう、未だにメガネにカツラ、帽子を被っていてお洒落とは程遠い格好をしている陽菜はどこからどう見てもモデルの秋村陽菜には見えないはずだった。

現に今までこの格好で昼に堂々と出歩いても声をかけられることもなかったので、陽菜的にこの変装には絶対的な自信があった。
なのにバレたとあっては陽菜にとっては一大事で、変装の仕方を見直す必要もあった。

困ったように眉を下げている陽菜を暫く無言で見ていた勇人は、特に表情を変えることもなく口を開いた。

「一目で分かった」

「え……」

「前も今日も、どんな姿をしていても不思議とすぐに分かる」

「前って……」

「額、大丈夫だったか?」

勇人が自分の額を指差して言ったその言葉に陽菜は目を丸くした。

それはKaiserと初めて出会った時に廊下の壁に思いきり額をぶつけてしまった時のことだと瞬時に察した陽菜は、まさかあの時すでに気付かれていたとは思わず挨拶もしていなかったことに今更ながら慌ててしまった。

「あ、あの時は挨拶も出来なくて……」

ごめんなさい。と、そう言おうとした陽菜の言葉を勇人が遮った。
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