クールなアイドルの熱烈アプローチ
今回はシャンプーのＣＭ撮りだった。

街中ですれ違った風に靡く女性の髪に男性が振り返り、綺麗な髪ですね。と声をかける。
女性は振り返り、ありがとう。と少し恥ずかしそうに微笑むといった内容だった。

陽菜は先程セットされたばかりの普段よりも艶々な髪にそっと指を通した。

ーー為せば成る。なるようになれ！

現場に入る時に緊張する陽菜が気合いを入れるためにいつも心の中で唱える言葉だった。

「秋村さん、入りまーす！！」

「よろしくお願いします！」

スタッフの声が聞こえ、陽菜は大きく深呼吸してからたくさんのカメラが向けられ、ライトが照らされているセットへと足を踏み出した。

いざ撮影が始まると、不安がっておどおどしている陽菜はそこにはいなかった。

いくつかのシーンに分けて何度も微調整をしながら撮影していく。

風の強さ、髪の靡き方、振り返った時の髪の動き。
細かい所を何度も調整して、納得のいく映像が撮れたら次のシーンへ。

ここまではリテイクもそんなになく順調で、次はついに大堂とのシーンだった。
すれ違って、綺麗な髪ですね。と言われるだけの簡単なシーンだが、陽菜はさっきの笑っていない大堂の目を思いだして体を固くしていた。
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