甘くない。ーバレンタインをー
✡ ✭ ✥
バレンタイン当日。
世界一の幸せ者といった顔をした理央が、手作りのクラシックチョコレートケーキを持って来ていた。後から登校して来た尚太に早速そのケーキを渡す。
「横野、これ」
「なんだ?」
箱を開けてケーキを見ると、
「オレぁ、甘いモンは嫌いだ、つっただろーがっ! いらん」
えっ⁉
と、あっさり言われてしまい、言葉が出ない理央。今迄と変わってない尚太の態度にショックを受ける。
「おっ! ケーキじゃん。ナオ、これもらったの?」
「いいなぁ横野、オレにも分けろよ」
周りにいた男子生徒が、尚太の机の上にあるケーキを見て冷やかした。
「羨ましいなぁ」
と、一人の言葉に、
「何が羨ましいだよ。この女は浮気性だぞ。昨日もどっかの男と会ってたぞ」
と返し、それで周りが笑った。
ヒェェェーーーッ‼‼‼
尚太のその言葉に、理央は全身の血の気が退いて行くのを感じた。
夢? 夢なの? 昨日のあれも、あの時の笑顔も、幻? もしかして…あたしの勘違い? 今迄と何も変わってない??
化石の様に固まり、生気を失った目で尚太達のやり取りを見ている。
周りが騒いでいる中、尚太は理央の作ったケーキを一摘みして、口に運ぶと、
「バーカ。泣くなよ?」
と言って、あの時と同じ笑顔で理央のおでこを小突いた。
理央は驚いて、小突かれたおでこに手を当てた。耳まで真っ赤になっている。そして自分に向けられた尚太の笑顔に、やっぱり見惚れるのだった。
END♡