ひとりだと思っていた君へ
「お姉ちゃーん、ちょっと待ってよ」
妹の美織(ミオリ)が後ろから追ってくる。それに答えず、柚月(ユヅキ)は自転車を漕ぐスピードも緩めなかった。あそこを右に曲がって、道なりに行けば海に繋がっている――。
今走る道路の周りには畑しかなく、目印になるものなどないのになぜかそれを知っている。その感覚が柚月の心をはやらせていた。
思った通り右に折れると、先に海が見えた。
しばらく行くと白い外壁に赤瓦の屋根の家が立ち並ぶ景色に変わる。細く緩やかな下り坂を降りていくと、行き止まりに辿り着いて自転車を止めた。
後ろから美織のブレーキ音が聞こえ、
「お姉ちゃん、なんで道知ってるの? 美織がおじさんに海の行き方を聞いてきたのに」と不思議そうに尋ねる。
そうだ、美織が海に行きたいと言い出したのだ。もちろんこの島に来たのは初めてで、おすすめのビーチがないか民宿のおじさんに訊いたのは美織だった。
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