ひとりだと思っていた君へ

「なんで?」と尋ねる。
「いる、いない?」と答えを先に急かすので、「いないよ」と答えた。
「良かった」と脱力して笑った。

「なんでそんなこと訊いたの?」
「……こんなこと言ったら変だって思うかもしれないけど。
私、臓器移植してから、自分じゃないような感覚を感じるようになったの。
例えば知らない場所を懐かしんだり、苦手なものが平気になったり、残像みたいでよく見えないんだけど、そんな記憶が残ってたり。
これはもしかしてこの心臓の持ち主の記憶なのかなってどこかで思うところがあったんだ。
ハローくんを初めて見かけたときも同じだったの。
懐かしい気持ちになって、人にそんなこと感じたの、初めてで。
もしかしたら、この心臓の持ち主はハローくんの知り合いなのかなってずっと思ってた」
「それをずっと気にしてたんだ?」
「うん。もしそうだったら、どういう人か知りたいような知りたくないような……そんな気持ちにもなったから。たまにね、自分自身が気持ち悪く感じることもあったから。
もし提供者の人がわかれば、自分のこともはっきりわかるようになるんじゃいないかって期待もした。
でも良かった。ハローくんの周りにはいなかったんだ。やっぱり考えすぎだった」
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