ひとりだと思っていた君へ
それから柚月は改まったように
「私さ、ハローくんにひとつ嘘を吐いてたんだ。
募金活動してた人のこと覚えてる?」
柚月が困った様子でいたことを覚えていて、頷いた。
「あの人のこと嫌いかって訊かれてそうじゃないって言ったけど、本当は嫌いだったんだ。
怖かったかんだ。
さっき話した亡くなった子の親っていうのがあの人だったから」
もしかしたらねと続ける。
「私の中に心臓を提供してくれた人の記憶があるのかもしれない。
だけど、それがあっても、私ならちゃんと自分のことわかるはずなんだよ。
それをわからなくしていたのは、きっと嫌いと思ってはいけないとか、助けてもらったから私も人を助けなきゃとか、そんな体裁のせいだったように思う。
ハローくんに誰の人生を生きてるんだって言われたときには気づけなかったけど、
私はこの心臓の持ち主の分まで生きると決めた瞬間から、きっと自分の人生を生きてなかったんだろうね。
命の区別がつかなかった」
言い切ると肩の力が抜けた。
「別の命があるから、こうして出会えたりできるのにね」
柚月が微笑むと、
「食べ物と一緒だね」
とハローくんは呟いた。
「食べ物?」
「うん。
ねえ、ゆづちゃん。こういうこともあると思う。
俺だって、出会ってからもう会ってない人だって沢山いるからね。
俺の知らないところでその人が死んで、ゆづちゃんのところに行っててもおかしくはないよね」
それは想定していなくて、柚月は言葉を失った。