ひとりだと思っていた君へ





経過は良好だったので、明日退院の運びとなった。
運動不足の解消と院内を散歩していると、研修室で何やら催し物をしていた。
どうやら心臓病に関するイベントらしい。
こんなこともしているのかと何気なく覗いてみる。
まばらに人がいる程度だが、取り外しの出来る大きな心臓の模型や症状が書かれたパネルなどが展示されている。

「柚月、何してんの」
「あ」
振り返ると須長くんがいて、柚月の病室から離れたここにいるとは思えなかったので、少し驚いた。

「今から柚月のとこに行こうかなと思ってたんだけど」
「あ、そうなんだ。ありがとう」
「ちょっと母さんに頼まれて、ここの手伝いをしてたんだ」

奥を見ると、須長くんのママが訪れた人にパネルを見せながら何か説明しているようだった。
この前は募金活動をしていたけど、こんな活動もしていたんだ。
そういえば、この前読んだブログにも別のボランティア活動の記事があった。

「行っても大丈夫?」
「うん」

歩きながら、
「おばさん、すごいね」
「え、何が」
「ボランティアでやってるんでしょ? 前、ブログでも読んだけど」
「まあ好きでやってるんだから、いいんじゃない」

素っ気なく言う。この前もそうだったが、彼が不機嫌になるのは、瑞樹くんのことではなく、おばさんのボランティア活動のことやブログの話になるときのような気がする。

天気が良かったので、外に行こうかと柚月は誘った。
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