ひとりだと思っていた君へ

「朝ちゃん」

声に出さず、心に閉まった。
すぐに壁で隠れてしまい、一瞬しか見えなかったけど、間違いなく彼女だった。
なんとなく彼氏が出来たような話は聞いたことがあったのだけど、それはどうやら本当だったらしい。
手を繋いで嬉しそうな顔をして歩いていた。
ショックではなく、彼女のそんな顔を見れたことが嬉しかった。
天使みたいと感じた彼女の笑顔は、一緒にいると見えなくなってしまったけど、実はずっと変わらずにあったようだ。
自分がなくしてしまったように感じていたけど、そんなことはなく彼女の幸せは続いている――。

思い返すと、柚月のことを『彼女なんだ』と嘘を吐いたとき、今みたいな笑顔を向けられた。

あれは、身の危険がなくなったからとか、付きまとわれなくて安心とかではなくて、純粋に喜んでくれていたんだと今さらながら気づかされる。

もう既に、彼女の中では終わっていたのかもしれない。

許されていたのに、許されていないと勝手に思っていたようで、彼女の寛容さに気づけないでいただけのようで――ただの独りよがりだったのかもしれない。

彼女ならきっと自分が幸せになることを自然と喜んでくれるはずだと彼女のことを純粋に好きだと感じていた自分ならわかっていたはずのことのようにも思えてくる。
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