ひとりだと思っていた君へ
母親の店に行って頼まれていた書類を手渡すと
「これ今日まで会社に出さなきゃいけなかったの。本当にありがと」
「んじゃ」
あっさり帰ろうとすると
「あ、そういえばさっき柚月ちゃん来てたよ」
「は?」
「お花、買いに来てね。ていうか喧嘩でもしたの? 最近、あんたと連絡とってないって言ってたなぁ」
心配というより明らかに興味本位といった顔で訊いてくる。
「なんもねーよ」
「ふうん。なんか元気なさそうだったなぁ。ああ、心配。とても心配」
芝居かかった口調でわざとらしい。けど元気がなさそうだったという言葉は正直ちょっと引っかかった。
柚月が退院したことは渋谷経由で知っていたし、母親からもお店に花のお礼を伝えに来たことを聞かされていた。
それにどうしてか捨てたはずのクリスマスリースが彼女の手元に届いていて、自分が作ったものだということも伝えられてしまった。
一瞬、連絡しようかとも思ったけど、急に無視したのはこっちだし、連絡できなかった。
喜んでいたというのは、素直に嬉しかったし、彼女を思うとこんな気持ちもあるのかとまた知らなかった感情を味わえたことに感謝は湧いた。
黙って帰ろうとすると、
「あんたねぇ、なんからしくないんじゃない?」
そんな言葉が投げかかる。
睨むように見ると腕組をしたまま
「柚月ちゃん、天気がいいから公園の方に行くって言ってたよ」
と、にやりとした顔で告げられた。