ひとりだと思っていた君へ

「あっそ」

誰が行くもんか。
明らかにあれは、息子の恋路を楽しんでいるに違いない。
少し歩いて立ち止まる。
彼女のバイト先であるココナが目に止まった。

あそこで商品を丁寧に説明してくれたこと、笑顔で見送ってくれたこと、公園を散歩したこと、ハロウィンのガーランドが可愛いと言って見せてくれたこと、文化祭を回ったこと、全力疾走で走って大笑いしたこと、写真を二人で撮ったこと、そういえば花なんてもらったの人生で初めてだった。

柚月との過ごした時間が思い出される。

どれも温かく優しい時間だった。

それなのに、どうして逃げてしまったのか。

一緒にいて嫌になったとかではない、ただ昔の自分が許せないでいただけだ。

女の子を泣かせてしまうことが怖かったし、自分は無意識に人を傷つけてしまうような気がしていた。

だけど、彼女といた自分はそうだったか。本当にそうだったか。

何度も柚月に言われていた。
自分は人の心を温かくしたり笑顔にしたり、優しい気持ちにさせると。
なら、そんなことはもうしないのではないか。
そんな希望も感じてくる。
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