ひとりだと思っていた君へ
3
「会いたい」と言ったときは何にも考えてなかった。また何かに突き動かされたような感覚だったと、ハローくんとの別れ際のことを柚月は何度も思い返していた。
昼休みになり、お弁当を広げながらハローくんから会いに来てくれたことを湖夏に報告すると
「ピクニックって久しぶりに聞いたわ」
と突っ込まれた。
「えっ、そこ?」
「いやいいじゃん。楽しそうだし、胃袋掴んだらこっちのもんっていうしね。まあ、しかしこれから寒くなるから春までしたくないけどね」
「そっか。だから行こうってならなかったんだね」
「いや、そういう問題でも、いやあるような気もするけど」
「そっかぁ。違う誘いをすれば良かったのか」
「まあ大問題は、番号交換しなかったことだけどね」
「……」
「……何?」
「うっ」
と柚月は胸を押さえた。
だってあんな笑顔で会いたいなら会えるねなんてこと言われたら、番号を交換するなんて提案しにくかったのだ。
自然に会えるはずだという雰囲気を壊す勇気はさすがになかった。
だけどもう会えない可能性があるなら、やはり訊くべきだったのかもしれない。
「はいはい、自覚できましたか」
「うん、胸に矢が何万本も刺さった感じ」
「それは良かった。てかさ、柚月が仲良くなりたいと思っているってことは、やっぱり恋しちゃったのかな?」
と湖夏はニヤニヤしながら問いかける。
「好きといえば好きだけど」と曖昧に答えた。
ハローくんには好感を持っているし、彼が会いに来てくれたことは嬉しかった。
だけど仲良くなりたいのは、彼に訊きたいことがあるせいでもある。
この気持ちは彼に初めて会ったときに感じた懐かしさのせいかもしれないし。
色々考えていると柚月は自分という存在の輪郭がぼやけているように感じてくる。本当の自分は透明人間で、たまに誰かの皮を被って歩いているんじゃないかと思えてくる。
美織があの海で「お姉ちゃん、どこにも行かないで」と呼び起こしてくれたことを思い出し、そんなことはないと言い聞かせた。