ひとりだと思っていた君へ
体育の授業が終わり、体育倉庫で柚月が片付けをしていると
「これ、忘れてる」
柚月の横にあったボールカゴにバスケットボールが投げ入れられた。須長くんだ。さっきまで彼のクラスと合同授業だった。
「びっくりした。宏くん、急に投げるの危ないんですけど」
「当たらないように投げただろ」
「それはそうだけど」
「なんか柚月、今日ボーッとしてたな」
「はっ?」
「顔面にボール」と笑い出す。
「それは、忘れてよー」
さっきのバスケの試合中、ボールを受け取り損ねて思い切り顔にぶつけてしまった。須長くんに見られていたと気づき、顔が赤くなる。
「なんか考え事でもしてたの」
体育館を出て渡り廊下を歩いていく。
「考え事してるつもりはなかったんだけど、してたのかなー」
「どういうこと」
「考えないようにしてるのに考えちゃう」
「何? そんな深刻な悩み?」
須長くんに顔を覗きこまれ、口をつぐんだ。
こんな恋とは言えない中途半端な気持ちを相談しても仕方ないから「なんでもない」とだけ言った。