ひとりだと思っていた君へ
それなのに須長くんは真面目な顔つきになって
「体調のこと?」
と訊いた。
亡くなった彼の弟、瑞樹(ミズキ)くんの顔が浮かぶ。
こういうことに人一倍敏感なのは、あの経験があったからだと理解して慌てて
「全然元気だよ。何ともないから」
否定した。
「だよな。体育の授業受けてたくらいだし」
「でしょ。最近じゃ風邪もひかないしね」
「はは。俺より丈夫だね」
笑う須長くんの肩の力が抜けて柚月は安心する。
人にかけなくてもいい心配はさせたくない。
「んじゃあ何の悩みなの?」
「えっ……あっ……」
柚月は体育の授業で考えていたことを思い出す。
彼はバスケコートの中で目立っていて、隅の方にいた女子グループがかっこいいねとこそこそ話していた。
もしかしたら彼はモテるのかもしれないし、知らないだけで彼女がいたこともあったのかもしれない。
経験豊富そうな須長くんに、経験のない柚月は恋愛相談の一歩手前のような話は幼すぎて、やはり口をつぐんでしまう。
「……まあ、言いたくないならいいけど。言わないなら、柚月が痔で悩んでると思っておく」
普段、柚月に下品なことを言わない須長くんにしては珍しい発言に驚きつつ
「痔? 違うから!」
反抗する。
「だから言えないんだなって。可哀想にね」
「普通、女子に痔とか言うかな? 痔じゃないです」
「そう思われたくなかったら、言えば?」
「思われたくないけど、痔じゃないし」