ひとりだと思っていた君へ
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目が覚めたら、涙が一筋零れていった。
柚月は指でぬぐいながらなんの涙だろうと不思議に思った。悲しいわけでも嬉しいわけでもない。枕元にあった目覚まし時計を見ると、起床時間をとっくに過ぎていた。
「寝坊した」
慌てて飛び起きて、身支度を整える。
「おはよう」
ダイニングに行くと美織が朝食を食べていた。さっき見た夢の彼女は小学生だったけど、今は中学一年生で、あどけなかった顔もすっかり大人びている。
そこであああれは、昔、家族旅行で行った先の夢だったと気がついた。
「まだ寝てるみたい」とママが笑いながら、柚月の前に朝食を並べる。
「目覚まし鳴らなくて、さっき起きたから。しかも変な夢見ちゃってさ」
「変な夢? 怖いの?」と美織が問う。
「ううん。なんかすごくリアルでさ。ほら昔、家族で沖縄の離島行ったじゃん。そのときの旅行の夢だったんだけど」
「ええっ。そんな昔のこと夢で見るんだ」
夢の中の美織を思い出す。彼女がどれだけあの日のことを覚えているか知らないが、柚月はそれ以上その話を詮索されたくなくて「早く食べないと間に合わないや。いただきます」と手を合わた。