ひとりだと思っていた君へ
タピオカミルクを飲み終えてから、四人でお化け屋敷や迷路、文化部の展示を見て回った。
次はどうしようかとゆっくり廊下を歩いていると、急に湖夏が柚月に耳打ちする。
「金髪くんは私に任せて。少しだけ二人で回って来たら?」
「え。おかしくない?」
「大丈夫。作戦はある」と握り拳をつくった。
湖夏は少し先を歩いていた渋谷に駆け寄ると
「渋くん、ちょっと一緒に回らない。男女ペアじゃないと行けないところがあって」
「何それ?」
ここのイベントなんだけどと、パンフレットを見せて説明する。納得したようで
「ってことで少しだけ別行動していい ? ごめんね」とハローくんと柚月にバツ悪そうな顔をする彼女の演技はナチュラルだ。
ハローくんは特に詮索する様子もなく「わかった。んじゃ、終わったら教えて」と見送った。
急に二人きりになってドギマギする柚月に対してハローくんはのんびりした口調で「何しようか?」と問う。
何がいいか。何も浮かばず、とりあえずもう一度パンフレットを広げてみる。現在地は三階だ。ハローくんも覗き込むから、顔が近づいて、柚月は思わずパンフレットを落としてしまう。
「わっ」
「大丈夫―?」と笑いながらハローくんは落ちたパンフレットを拾い上げ柚月に手渡す。過剰反応してしまって恥ずかしいと柚月は耳まで赤くなる。
ふいにハローくんは「餃子」と呟いた。
何のことだろうと視線の先を追うと餃子・家庭科室前・家庭部と書かれた案内が廊下の壁に貼られていた。