ひとりだと思っていた君へ
「餃子。おいしそうだね。そういえば去年も餃子売ってるところあったな。すごい美味しかったけど。家庭部だったかな?」
と去年の文化祭を思い出した。
確かその出店は中庭でやっていて、餃子の早包みという催しもやっていた。
あ、あの先輩だ。京先輩の双子の妹の朝芽(アサカ)先輩。彼女が餃子の早包みをしていたんだ。
目を引く企画だったし、彼女もまたイケメン兄弟を持つ校内の有名人ということもありよく覚えていた。
ハローくんが案内板をじっと見つめるものだから、「行ってみる?」と誘った。
その問いかけに少し戸惑ったように、んーと悩んで見せた。
「やめようかな」明るく笑う。お昼いっぱい食べちゃったしと。
「うん。じゃあ、あと何がいいかなー」と再びパンフレットに目を通していると
「ハローくん?」
と呼ばれて、彼に遅れて柚月も振り向いた。
そこにいたのは、さっき柚月の記憶の中にいた朝芽先輩だった。
「朝ちゃん」とハローくんも親し気に呼び返す。そのことに柚月は驚いた。
「やっぱりハローくんだったんだ。さっき、中庭にいるの見かけて気になってたんだ」
そう言うと不思議そうに柚月を見やる。
「柚月ちゃん。友達だよ」とハローくんは答えて、「こんにちは」と優しく挨拶をしてくれた。ふんわりとして可愛らしい印象がより深まる笑顔だった。