ひとりだと思っていた君へ

「あ、そうだ。待ってて」と朝芽先輩は急に小走りでいなくなる。

「ハローくん、朝芽先輩と知り合いだったんだ?」
「ん? うん」
「びっくりした。すごいね」
「朝ちゃんのこと知ってるの?」

慌てて首を横に振る。

「この学校で有名だから、私がただ名前を知ってるだけだよ」
「有名なんだ」
「うん。朝芽先輩も可愛いけど、他の兄妹がイケメンっていうのもあって相模四兄妹ってすごく有名なんだよ。卒業しちゃったけど、朝芽先輩のお兄さんすごく人気あったし」
「ふうん。お兄さんね」

朝芽先輩が戻ってくると「良かったら、食べて」と餃子がのった船皿を手渡した。

家庭部で作ったもので、自信作だと言う。ハローくんが受け取ろうとしなかったので柚月が代わりに受け取った。

「ありがとうございます」
「朝ちゃん、ありがとう。すごい嬉しい」と一瞬遅れて返事をする。

「うん。じゃあ文化祭楽しんで行ってね」

朝芽先輩は踵を返す。ハローくんは立ち止まったままで、柚月も一緒にその後ろ姿を見送っていた。
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