ひとりだと思っていた君へ
会話の後の二人は、さっきと何も変わらなった。意味深な内容ではない。変に考えすぎだったのかもしれない。
それから階段に並んで座って、餃子を二人で食べた。
臭いが気になるかなと思ったけど、二人で食べるなら構わないかとハローくんの食べてる姿を見ると自然に思えた。
一緒にいるときに広がるこの心地のいい感覚はなんだろうと柚月は思う。胸の中に明るさがある。
ふと箸を持つハローくんの手の甲に傷痕があることに気づいて、柚月は目で追ってしまった。
ハローくんはその視線に気がついて説明する。
「これ、彫刻刀の傷だよ」
「彫刻刀?」
「うん。図工の時間に、彫刻刀で切ったっていうか切り付けられたっていうか」
「切りつけられた?」
「まあ、拍子で」
事故だと言いたいようだ。
「本当に? 痛そう」
「うん。あの痛みは忘れられないかも。あ、最後のひとつ食べていいよ」
と勧めた。
食べ終えてから、携帯で今日撮った写真を見返した。
柚月と湖夏がタピオカミルクを手に笑っていたり、ハローくんと渋谷と湖夏がお化け屋敷前でふざけていたり、画面から楽しさが伝わってくるようだ。
ハローくんにも「送るね」と撮影したものを送ると、「渋のこの顔、超気持ち悪い」と柚月とは別の角度で楽しんでいる。
柚月はハローくんと一緒に撮りたいなと思ったけれどさすがにそれは言いづらい。湖夏が来たらお願いしようかな、言えるかなと考えていると
「そろそろ帰るね。渋に電話する」
とハローくんは携帯を操作し始めた。