ひとりだと思っていた君へ

部屋に戻ってから、携帯を忘れたことを思い出しリビングに向かうと扉の奥から
「お姉ちゃんさ」と美織の声が聞こえ立ち止まった。

「なんかさ、ずっと思ってたんだけど、変わったよね」
「変わったって?」
「好みとかもだし、なんか話してて違和感あるときがあるっていうか」
「なに違和感って?」
とママが笑う。

「……変に優しくしようとしてるときがあったりとか」
「そう? 昔から優しい子だったじゃない。美織よりはお手伝いとかしてくれたしね。美織も少しくらいママに優しくしてくれたらいいのに」
「ていうか、優しくしようとしてする優しさなんか嘘だし……ママ、私が言いたいのはさ、あれから変わったってことだよ」

あれからと言う言葉だけでなんのことかわかったようで、ママの口調が厳しくなる。

「柚月は変わってないわよ。色々な経験してきたんだから、成長して当たり前でしょ」
「でもたまに言うじゃん。
臓器移植したあとに好みが変わったとか、知ってるはずのないことを知ってるとか。
臓器の持ち主の記憶があったりするとか。
私、たまにお姉ちゃんがお姉ちゃんじゃないような気がするときがあるんだもん」

ママは「美織」と叱りつけるように名前を呼んだ。そこで言い過ぎたと感じたようで
「ごめん。もう言わない」
と口をつぐんだ。

美織はただその違和感を誰かと共有したかっただけで、姉を否定したかったわけではない。柚月もそれを感じられたからこそ、扉を開けられなかった。
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