BRST!
『稜ちゃんと昴ごめんね、今すぐ戻ってくるから。』
『……ああ、』
奥の部屋から姿を現したのは、兄貴。
…と、見知らぬ女で。
『…昴くん…?』
不安そうに小さな声を洩らす稜に、俺は。
このときばかりは気付けなくて。
――待て、待てよ。
あの女、何処かで――…
兄貴が女の腰を抱きながら、俺たちの前を横切っていく。
その瞬間に鼻腔を掠めたのは、覚えのあるローズの香りだった。
"お兄さん、このリングどう?安くするわよ"
"…、……"
"如何にも怪しい、って顔してるわね。大丈夫よ、もし何かあったら返品してくれて構わないから"
『…っ、』
ああ、そうだ。
思い出した――…思い出して、しまった。
俺が18のとき。
稜と約束したペアリングを買おうとして向かった先の――アクセサリーショップの、店員だった女だ。
そこまで考えが及んだ、そのとき。
顔を上げた俺に流し目で視線を向けた女は、そのまま合図を送るようにして例の"黒い石"に視点を合わせた。