BRST!
ガチャリ、鍵を差し込んではノブを回し、見慣れた店内へと足を踏み入れた。
「……、」
変な気分だ。
泥棒にでもなったような――…嗚呼、大して変わらないか。
カウンターの奥に、人目に付かないように置かれているビンにそっと手を添えた。
「……凄いな。」
それこそ数週間前に比べればマシになっているものの、ビンから溢れんばかりの禍々しい空気。
コルクが無ければ、この部屋全体を呑みこんでしまいそうだ。
それを暫く見つめてから、手中にある嘗《かつ》てのペアリングに視線を落とす。
微細ではあるがその"装飾石"が放つ淀んだ雰囲気に、何故今まで気付かなかったのかと自責の念に駆られた。
カツン、と。
歩を進める度に、静かな店内に音が響き渡る。
薄暗い店内に柔な光が差し込み、もう直ぐで夜明けだと気付く。
何時までも頭を占める稜と兄貴の顔を振り払うように、携帯電話の電源を落とした。
バッグに例のビンとペアリングを押し込み、再度鍵を差し込んでバーをあとにする。
――…最後まで、俺が振り返ることは無かった。