たぶんこれを、初恋と呼ぶ
ふと、別のショーケースにある腕時計に目が行った。
「あの、これって…」
「こちらは、手巻き式の腕時計なので、定期的に巻いてあげないと止まってしまうんですよ」
「え!?そうなんですか」
「はい。面倒かもしれませんが、腕時計や機械が好きな方には愛されているんですよ」
確かに、面倒かもしれない。これから終活だってあるのに、いちいち巻くのは確かに手間が掛かるだろう。
けれど、安尾くんて確か工学部って言ってたし機械好きそうだし……何より、気に入ってくれそう。
「これにします。これ下さい」
高校生から見たら十分高額だが、身構えるほどの額じゃなく、買えない事はなかった。
その時の私は、安尾くんが喜ぶ姿と、照れながらも嬉しそうにこの時計を身に付けてくれる姿を想像していた。
地元に戻って、駅前のスタバでフラペチーノを買って、リナ達といつものように何でもない話をしながら歩いていた。
「ねえ、まじで梅の彼氏ってどんなんなの?」
「どんなんって…普通の大学生だけど」
「えー、イケメンじゃないって言ってたけど、想像じゃめっちゃ絶対嘘でしょ。梅がわざわざブランドの時計あげるくらいだし」
「まあ、似合うとは思うけど…」
「イケメンで金持ちなんだろうなあ~」
何だその想像。
説明する気にもならずに、ただ笑って流すしかなかった。
「リナはクリスマスどうするの?」
「あたしはディズニー行くんだ。泊まりで」
「え、また?」
「サプライズらしいんだけど、ランドホテル泊まりたいって言っといたから、多分そこ泊まるんだと思う」
「そうなんだ…」
「年上と付き合ってるんだしそれくらい当然じゃん?その為に付き合ってるようなもんだし」
すごいな、その彼氏。
リナに一体いくら使っているんだろう。
安尾くんと付き合えた。彼女になれたから、誕生日とかクリスマスとか、そういう特別な日を一緒に過ごす事ができればいい。いや、本当はくっついたり触れたりもしたい。
今回私は安尾くんにブランド物を買っちゃったけれど、それは私が勝手にあげたいと思ったからで、安尾くんから見返りが欲しいとは思っていない。
そりゃあ特別な日には何か形に残るものを貰いたいとは思うけれど、安くたって、私の為に用意してくれたものなら何だっていいと思う。