たぶんこれを、初恋と呼ぶ
仕事帰りに梅ちゃんと朝子さんの店に寄った帰り道にクリスマスの話題になり、次こそちゃんといいスポットを調べていい感じのレストランを予約しようと意気込んでいると、梅ちゃんは「私が何か作ろうか?」と言った。
「え、いいの!?つーか梅ちゃん料理できんの!?」
「うわ、失礼」
「や、ごめん、だってずっと実家暮らしだって言ってたし…」
「いや、まあそんなに大層なものは作れないけど、レシピ見ながらやればある程度はできるよ」
「すげえ…」
「でも安尾くんちお鍋とか揃ってないんだよね。レンジもオーブン機能付いてないでしょ?」
「オーブントースターならあるけど」
「うーん…家から作って持ってくしかないかなあ」
梅ちゃんは渋い顔をした。
いつもパンを焼くトースターじゃだめなのか。
「じゃあ俺、オーブン買おうかな。鍋とかも」
「え!?」
「わざわざ作って持ってくるの大変でしょ。レンジもだいぶ年季入ってるし、今の時期安くなってそうだし、丁度いいよ」
「そっか…じゃあこれから私が思う存分安尾くんに手作り料理をご馳走してあげよう」
そのまま駅前の大型家電飯店により、オーブンレンジと調理器具を一式買った。
明日の夜着で配送されるので、ちょうどいい。
「あ、そうだ。安尾くん、新しいシャンプー置いてもいい?」
「シャンプー?いいけど」
「安尾くんちのシャンプー、髪パッサパサになるよ。大丈夫?」
「うるせ、こっちは何年もそれ使ってんだよ」
「えー、だからそんなにチリチリなんだ。髪って大事だよ。同じシャンプー使お?」
「……うん」
梅ちゃんと付き合う前の俺だったら、カップルのこんな会話が聞こえたらまじて爆ぜろとしか思えなかったが、今なら理解できる。
俺は完全に浮かれたままクリスマスを迎えた。