たぶんこれを、初恋と呼ぶ
[番外編]仲睦まじく
ある日、安尾くんが私に言った。
「……八嶋に下着とか貰った事あんの」
ん?
珍しく不機嫌そうな雰囲気を出していたので何かあったのかと思っていたが、何を突然。
また兄にでも余計な事を吹き込まれたのだろうか。
「下着?なんで…」
「……別に」
こちらを見ないまま、素っ気なくそう言われた。
聞かれた事は本当の事なので、否定しても嘘だとバレてしまうだろう。
嘘をついたら、彼を傷つけてしまうかもしれない。
「何度か貰った事あるけど…でもごめん、安尾くんに話す内容じゃないよね」
「何、話しちゃいけないような事なの?」
「そういうわけじゃないけど…」
相当機嫌が悪いようだ。
大きい犬みたいに反応がわかりやすい。
台風で散歩に行けなかった日のムッちゃんより機嫌が悪い。
安尾くんの気持ちはわかる。
私だって彼が他の誰かのものだと思い込んだ時に、同じような思いをした。
安尾くんからの軽い嫉妬心は、会話や行動の中に時々感じていた。
気にしてるくせに、何も言わずに何も思っていない素振りを見せて。
安尾くんはそういう感情を絶対口にしないで、ただただ我慢している。
自分からわざわざそういう過去の話をするのも嫌な感じだし、かと言って安尾くんは多分ずっとこのまま我慢し続けると思う。
付き合って半年以上が過ぎたけれど、安尾くんと私の間には、未だに薄い壁のようなものがある気がする。
でも今、わざわざこんな話を出してくるという事は、余程気になる事だったのだろうか。
……まあ、話の内容が下着って。
何となく、どういう話の内容なのかは想像できるけど、もう少しそっとしておいて欲しかった。
…ポジティブに考えれば、ある意味安尾くんとの壁をぶち壊すチャンスなのだろうか。