たぶんこれを、初恋と呼ぶ
「そんなに多くないですよ、平均くらいじゃないですか」
「えー、何人です?具体的に!」
「5人くらいです」
「へえ、割と普通ですね。結構長続きするんですか?」
「まあ、そこそこに」
「一番短かくてどれくらいですか?」
「聞いてもつまらないですよ」
「またまた。みんな百合川さんに興味ありますよー」
「……3週間です」
思わずビールを吹き出し掛けた。
俺の事だ。そりゃそうだ、いくら何でも3週間は短すぎる。
「えー短かっ!でも百合川さんて、スパッと次行きそうですよね。元彼の事引きずったりしなさそう。忘れられない人とかいます?」
「はは、内緒です」
「えー」
一人動揺する俺を他所に、先程までの周りの若干引き気味だった空気は元に戻っていた。
たぶん彼女がずっとニコニコしながら話を聞いているから、周りは「大丈夫だ」と判断したのだ。
「ていうか、安尾さんて結婚されてるんですねー意外ー」
またもや何の脈絡もなく話は突然変わり、やはり今度は俺が餌食にされた。
俺の薬指を見て、佐伯さんがやたらとでかい声で言う。
見栄を張った偽物の指輪なので、気まずくなって何となく反対の手で覆った。
本当は外してくればよかったのだ。
でもこの前彼女に「おめでとう」と言われて、あの時俺は、もう本当に何でもないんだと実感した。
俺が結婚したところで、彼女には関係ない。
それが痛いほど伝わって、彼女に誤解を解く気にもならなかったし、誤解を解いたとして見栄を張って偽物の結婚指輪をはめていたと白状するのは格好悪すぎてできない。