たぶんこれを、初恋と呼ぶ
私が高校2年生になった時、久し振りに安尾くんが家に来た。
兄が大学に入学してからだんだん来る回数が減って、新作のゲームがでるとたまに来る程度になった。
少しして兄が都心の大学に片道各停1時間強はキツすぎる、と甘えた事を言い出して、家賃も生活費もバイト代で何とかしろという条件で両親は兄の一人暮らしを許した。
結局払えるのは家賃くらいで、生活費は度々実家に頼ってきている。
そんなこんなで兄が一人暮らしを始めてからは、安尾くんがわざわざ家に来ることはなくなった。
なのでその時安尾くんに会ったのは2年以上振りだった。
「見て〜彼氏がさあ、誕生日にディズニー連れてってくれてミラコスタ泊まった!」
「インスタ見たよ〜いいな歳上の彼氏〜」
その頃、年上と付き合うのがステータスみたいな雰囲気が私の周りにはあった。
友達はみんな年上と付き合いたがっていて、私はずっと友達の憧れや自慢を聞いている側だった。
私も年上と付き合ってみたいっていう興味はそれなりにあって、その時私には少し気になっていた年上の人がいて、運良くその年上の人と付き合えた。
年上はお金持ってるしリードしてくれるから頼りになる、と周りの子は言っていたけれど、私が初めて付き合った年上の人は全然違った。
「年上の男の人」というより、「年上の男の子」という感じだった。
「彼氏の友達紹介してもらおうか?」
「まじ!?是非とも頼む」
「おっけー。梅は?」
「え?」
「歳上紹介するよ?そろそろ次の彼氏欲しいでしょ?」
「あー…」
「好きな人とかいんの?」
「好きな人っていうか、気になってる人はいる…」
「うそ!タメ?年上?下?」
「年上だけど」
「いいじゃんいいじゃん!早く告っちゃえばいいのに〜!そしたら梅も色んなところ連れてってもらえるね」
「うーん」
安尾くんて、皆の年上の彼氏みたいにお金持ってたり旅行に連れてってくれていいホテルに泊まらせてくれたり、そういう感じの人じゃないと思う。
休日はずっと家でゲームしてそう。別にそれでいい。出かけるのは好きだけど一人でも友達とでもできるし、家でのんびり過ごすのも好きだ。安尾くんとのんびり家で映画観たりゲームしたり、たまに少しの散歩に出たり、そんな想像するだけですごく幸せになれる。
元々安尾くんの事気になっていたけど、多分私、どんどん安尾くんの事好きになってる。
……でも安尾くんは、多分私の事が好きじゃない。
あんまり話してくれないし目も合わせてくれないし、たまに合っちゃうとすぐ逸らされるし。
多分私みたいなタイプは好みじゃないんだろう。もっと控えめで大人しそうな人が好きなんだろうか。私だってそんなに騒ぐようなタイプではないんだけどな。
でももう2年以上も会ってない。兄がいない限り安尾くんが実家に来る事はないし、連絡先も知らないし。好きじゃないっていうより、それ以前の問題で忘れられているかも。