たぶんこれを、初恋と呼ぶ
駅から10分の居酒屋だったので、もうすぐ駅に着いてしまう。
しかし今ので会話は終わってしまったし、残りの距離を無言で歩くのも気まずい。
一体俺は何をしに来たんだと自分に突っ込みつつ、彼女の隣を歩く。
「……まだ、終電の時間には早いと思うんですけど」
何か喋らないと、と頭をフル回転させて出てきた話題がこれだった。
失敗したと思ったが、彼女は特に気にする様子もなく言った。
「私まだ実家なので。うちの最寄り駅の終電の時間、ご存知ですよね?」
「…え、実家?まだ?だって会社までだと片道1時間はあるんじゃ」
「そうなんですよ。朝がきつくて。まあ、慣れると平気なんですけど」
「勝手に、都心のお洒落なデザイナーズマンションとかにでも住んでるのかと思ってました」
「はは、私のイメージって」
「何でまだ実家なんですか?」
突っ込んだ質問をしてしまった。これも全部酔っているせいにしよう。
だって俺でさえ、大学時代は金もないので実家で我慢したが(どうしても無理な時は聖が1人暮らししていたアパートに泊まれば何とかなったし)、社会人になってさすがに会社までの通勤に片道1時間、往復で2時間は時間の無駄だと考え、都心寄りで物件を借りて一人暮らしを始めた。
聖は大学から一人暮らしをしていたし、彼女だって、すぐに実家を出そうな感じなのに。
「飼い犬が心配だからです」
「え?」
「もう11歳になります。大切な家族なので、無責任な事はしたくないですし、少しでも一緒にいたいだけです」
彼女は前だけを見ていった。
アッサム大尉。
もう何年も見ていないが、そうだ、俺が高3の時に拾ったから、もう11年も経つのか。