たぶんこれを、初恋と呼ぶ



「…アッサム大尉、元気ですか」

「ムッちゃんです」

「大尉は、愛されてるなあ」

「……前から思ってたんですけど、その変な呼び方辞めてください。昔、ムッちゃんが混乱して大変だったんですから」

「ごめんごめん」


彼女の家に遊びに行けば、いつも大尉と遊んでいる姿を見た。

あの空間はいつも優しかった。


「送ってくれてありがとうございました。ではまた、進行状況をメールでお伝えします」

「あ、はい。宜しくお願いします」


昔の事を思い出して浸っていたが、彼女の仕事中の口調で我に返る。


再会して、昔のような口調で話してくれたのはほんの一瞬。

明らかに線引をされている気がするし、昔のように『安尾くん』と呼ばれたり、砕けた口調で話される事はもうないのだろうか。


無意識の内に、またそっと腕時計に触れていた。

ここぞって時につける腕時計だったのだが、あの顔合わせの日から、毎日付けている。
付けていないと何故か不安になってしまうからだ。


クズだった俺には戻らないとか言って、全然変わってない。




彼女の後ろ姿が見えなくなって、ゆっくりと反対側のホームへ歩いた。


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