たぶんこれを、初恋と呼ぶ
「おー、ヤス。久しぶり、お疲れー」
久しぶり…といっても聖に会うのは半年振りだった。昔程とは言わないが、それでも大阪と東京の距離があるわりには定期的に会っていると思う。いつみても相変わらずイケメンの、黙っていても人を寄せ付けるような雰囲気のやつだ。
ちょうど近くにいるとかで、俺の会社の最寄まで来てくれたので、行きつけの大衆居酒屋で飲む事になった。
「お前の妹、体調大丈夫なのか」
「え、梅?何、体調って。え、何、お前らまた繋がってんの?」
聖は突然何を言い出すのかといった表情だ。
俺の事、何も話してないのか。そりゃそうか。そうだよな。
「会社がデザイン関係で懇意にしてるのが彼女の職場だったんだよ。今の案件でお互い担当になってるから、久し振りに会った」
「へー、そんな偶然あるんだ」
「今日倒れて仕事早退したって聞いたんだけど…」
「梅が?いや、何にも聞いてねーけど。つーか俺、梅とは家族LINEの業務連絡ぐらいでしか連絡とらないし。お前の事とか仕事とか倒れたなんて事、全部初耳」
「そっか…」
「気になってんなら連絡すればいいじゃん」
「……連絡先知らないし」
「え、そうなの?あーでも俺もLINEしか知らねえ。あいつ携帯変えた時、番号も変わったんだよな。それから番号登録してねえ」
実は俺の携帯には、7年前のまま彼女の連絡先が残っている。
あれから7年間、忘れられなくても連絡する勇気が出ないまま時間だけが過ぎてしまったが、さっき彼女の体調が悪いと聞いて、掛けようとした。
いきなり掛けて気持ち悪がられたらどうしようと、悲観的な想像だけが大きくなっていって結局掛けられなかったのだが、それでよかったのかもしれない。
7年大事に連絡先を残しておいて、いざ掛けたら繋がらなくなっていたなんて、まじで痛すぎる。
「…梅と結構仲いいの?」
「…そりゃあ別に、あくまでも仕事相手だし。悪くはねーけど、普通だと思う」
「ふーん。そのわりには、何か言いたげじゃん」
思わず言葉に詰まる。
聖は昔から、空気が読めないのかと思えば異常に読む時もあるし、鈍感なのかと思えば異常に勘が鋭い時がある。
俺は諦めて、今回のMSMさんとの打ち合わせから偽の結婚指輪の件を、全て聖に吐き出した。
「……そういうわけだから、俺の事聞かれても何も言うなよ」
「ぶはは、結婚したって嘘つくとか、まじウケる。やべえわそれ。さすが素人童貞」
「うるせーよ!お前には一生わかんねーよ」
「何でだよ。つーか言えばいいじゃん、指輪は違うって。普通にアクセサリーだとか、言い方は色々あるだろ」
「俺がアクセサリーで指輪付けるように見える?」
「見えない。見た事もねーし。まあいいか、梅だってそんなに気にしてないだろうし」
聖の何気ない一言を、耳が拾う。そして頭の中をぐるぐると駆け巡る。
そりゃあそうだ。聖の言っている事は正しい。