たぶんこれを、初恋と呼ぶ
強めの日本酒をぐいっと一杯飲む。
「あー」と焼けるのどで息を吐いたら、背中越しに「先輩」と声がした。
カウンター席から後ろを振り向くと、八嶋が立っていた。
「安尾先輩、偶然ですね。お疲れ様です」
どうやら八嶋も、友人と来ているようだ。
安くて種類があって美味いので、アツシさんと八嶋ともよく来る店であるし、プライベートで偶然会うのは初めてじゃなかった。
「おー、お疲れ。偶然だなー」
「邪魔しちゃってすいません。また明日」
「いや全然。また明日、お疲れ」
八嶋は軽く挨拶していって、そのままテーブル席に戻った。
隣に座る聖が、ちらっと振り向いて八嶋を見た。
「今の会社の後輩?」
「うん」
「ふーん。俺どっかで見たような気がする」
「ああ、高校同じだって言ってたから見た事あるのかもな」
「いや、年齢的にかぶってねーだろ。つーかそんな遠い関係の奴覚えてねーよ普通」
「知るかよ。お前無駄に顔広いから…」
「いや、そういうのと違う。何だっけなー」
記憶を思い起こそうとしているようだが、酒が回っているからか中々思い出せないようだ。
そこまで言われると気になってしまうが、思い出したところで俺には関係ないだろう。
「そんな事よりさ、体調…大丈夫かな」
「なんだよ、わかったよ。実家遠くて面倒だから会社近くのホテルでも泊まろうと思ってたけど、帰りに実家寄ってみるわ」
「そうか。悪いけど、頼む。連絡貰えるとありがたい」
「……ああ」
聖が実家に帰ると言ったので、終電の関係で早めに解散する事になった。
家に着いて1時間程が経った頃、聖から「過労の貧血だって。風邪もひいてて熱もあるけど、休めば大丈夫らしい。とりあえず明日も出勤しないで休むらしい」と連絡があった。
電話を切って、俺は自分がひどく情けないと思った。
彼女が無理をして辛い時に、俺が何とかしてあげたい。
傍にいて支えてやりたい。自分にできる事なら何だってする。
ただただ、そう思った。