たぶんこれを、初恋と呼ぶ
金曜日の昼、食堂で昼食をとっていると、営業の江藤が隣に座った。
「安尾さん、お疲れ様です。デザインの状況はどうですか?」
「お疲れ。直前で会長が直筆の絵を入れたいとか言って変更してもらってる。今日の会議までに最終データ貰う予定で、会議通れば発注だな」
「あー、会長の要望なら応えないとまずいっすよね。でもよかった、何とか無事に済みそうですね」
「うん、色々ありがとな。助かったよ」
「いえ、俺も色々と勉強させてもらいました」
部署は違えど先輩の俺を立ててくれての社交辞令なのだろうが、勉強になるようなところはどこもなかっただろう、と心の中で突っ込む。
そんな事を思っているとは知らないであろう江藤は、うどんをすすりながら「そういえば百合川さんなんですけど」と彼女の話題を出してきた。
「この前の懇親会の時、他のデザインの子の百合川さんに対する態度、やばかったじゃないですか」
「ああ、確かに」
「気になって他の子に聞いたんですけど、なんか同じデザインチームの子に逆恨みされてるらしいですよ。中村さん?でしたっけ。百合川さんが異動してきた当初は普通だったらしいんですけど、異動してきて間もない頃に、合コンがあったらしくて。女性の方に欠員が出て、百合川さんが人数合わせで連れていかれたらしいんですけど」
「…へえ。それで?」
「そこで一番人気だった男を中村さんが狙っていたらしいんですけど、百合川さんを気に入ったらしくて。で、百合川さんもその男と付き合っちゃったんで、それからあたりがキツくなったらしいです。それがこの前中村さんに暴露されてたCEOの元カレってやつですよ。2年くらいで別れちゃったたらしいんですけど、そんな高スペックな男と別れても百合川さん気にしてなさそうだったし、そういうところがまた気に入らないんでしょうね」
「でもいくらなんでも、そんな私情を仕事に挟むのは間違ってるだろ」
「ほんとっすよね。まあ仕事さえちゃんとやってくれてればいいんですけど。百合川さんは大変だろうな」
大変も何も、先日過労で倒れたばかりだ。
行き場のない感情がふつふつと腹の底から湧いてくる。
ふう、と一息ため息をつくと、江藤と入れ違いで部長が俺を呼びにきた。