たぶんこれを、初恋と呼ぶ
そんな事をうだうだ悩んでいたら、ある日突然兄が安尾くんを実家に連れてきた。
玄関に兄のお洒落なヴィンテージの革靴と履き潰されたボロボロの地味なスニーカーが並んでいるのを見て、まさかと思ってリビングに急いだら、予想通りリビングで兄と安尾くんがゲームをしていた。
安尾くんにこんにちはと挨拶して、平常心を保つ様に「お兄ちゃん実家に帰ってくるの珍しいね」と話し掛けた。
「梅さー今彼氏いんの?」
「え、いないけど…」
「じゃあヤスと付き合えば?」
「えっ何で?」
信じられない言葉に、私は嫌悪感を隠せなかった。
だって兄の悪ノリに決まってる。
「いいじゃん、今彼氏いないなら暇潰しだと思ってさー。なーヤス」
「いやっ、俺は別に…」
安尾くんは誰がどう見ても明らかに困っていた。
兄のこの悪ノリには慣れているけれど、今日のはタチが悪い。
「いや、無理!暇潰しとかないから」
そもそも私は結構本気で安尾くんの事が好きなので暇潰しという例えが間違っているし、安尾くんに対して失礼すぎる、という意味で言ったのだが、私の言い方が悪かったのか兄は「きつい事言うなよ〜」と決まりの悪そうな顔をした。
それを見てハッとして、今の言い方はきつかったのか…と安尾くんを見ると、案の定安尾くんは若干顔を引きつらせて明らかに私に引いていた。
「いや、何て言うかその、そう言う意味じゃなくて…」
「じゃあいいって事?」
「いいっていうか、安尾くんがないとかそういう意味じゃなくて」
「じゃ、そういう事でよろしく」
兄はそんなに安尾くんに彼女を作らせたいのか。その相手が私じゃなくて、兄の周りにいるような女の人達を紹介されるのはすごく嫌だ。
兄とは会話が噛み合わないままだったが、私は安尾くんとそんなノリで付き合うことになった。
でもこんな始まりでも、安尾くんの困ったような顔を見て私にその表情が移っても、私は内心ではラッキーと思っていた。