たぶんこれを、初恋と呼ぶ
彼女の熱心さに押され、社用車に彼女を乗せて会長宅まで向かう。
社用車以外に車を運転する事はほとんどないので、仕事以外で人を乗せるのも数える程しかなく、それほど運転にも自信があるわけではないので緊張した。
「免許持ってらっしゃるんですね」
「ああ、はい。内定が決まって、空いた時間に取りました」
「そうなんですか。いいですね、行ける所も広がりますし」
「でも車を持ってるわけじゃないんで、仕事以外ではあんまり乗らないんです」
「え、もったいない。車で遠出するの、きっと楽しいですよ」
「そうですね…折角だし今度どこか行ってみます」
「はい」
車内の中では彼女が色々な話題を振ってくれた。
中でも仕事の話をした時に、彼女の話と仕事振りから、何となく俺は彼女の事を少し誤解しているんだと感じた。
兄の聖は人柄と人望で課題やグループ活動でも要領よく人を動かすのが上手かったから、勝手に妹の彼女もそうだと思い込んでいた。
昔のイメージからしても、明るくて可愛らしくて社交性があって、人付き合いも勉強も私生活も全て要領よくこなせる、学校生活で言う「一群」の女子。
だけど実際は、仕事はできるがそれは影で人一倍努力していたからで、できる事は全て自分でやってしまおうとする不器用な子だったのだ。
会長宅までは会社から車で20分程。それほど長くはないが、彼女と話していると更に短く感じた。