たぶんこれを、初恋と呼ぶ


会長宅の最寄駅で待っている部長を拾い、会長宅に向かう。


会長は最初こそ渋い顔をしていたが、結果的に彼女の熱心な態度を見て、特に無茶な要求もなく何とか首を縦に振ってくれた。


会長は若い女性に甘いところがあるが、それよりも仕事に熱心な人間をちゃんと評価してくれる人だ。



これで月曜日に朝イチで発注をかければ、デザインの方はひと段落だ。



部長を駅まで送り、彼女も会社近くの最寄り駅まで送ろうと思ったのだが、車内に二人になると言った。





「安尾さん、このあとお時間ありますか?」

「え?」

「もしよかったら、お昼にこの前言った美味しいご飯に行きませんか?」


不意打ちで言われたので、頭が理解するのに間が空いた。

赤信号が青に変わったのにも気付かず、後車のクラクションの音ではっとして慌ててアクセルを踏んだ。


「あ、もし予定があるなら全然断っていただいて大丈夫ですよ」

「いや!大丈夫です、暇です。でも俺今日、こんな格好で来てて」


休日といえど一応仕事なので、いつもの通勤時とほぼ同じ服装だ。

彼女が会社まで来てくれると思ってなかったし、ましてや同行するとは考えもしなかった。知っていたらもっとましな格好をして来た。



「大丈夫ですよ、知り合いの店、カジュアルなお店なので」

「そ、そうですか…」


そう言われても、気にしないわけがない。

彼女と二人なんてただでさえ違和感なのだから、せめて服装だけでもましな格好をしていたかった。


しかし折角の誘いを断る方が後悔するのは分かりきった事なので、社用車を会社に戻し、二人で電車に乗った。





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