たぶんこれを、初恋と呼ぶ


食事を食べ終えると、彼女はお手洗いだと席を立った。
俺はコーヒーを飲みながら、何となく店内を見回す。

すると彼女の友人である朝子さんが焼き菓子を持ってやって来た。



「よかったらこれどうぞ。サービスです」

「あ、ありがとうございます」

「…あの、先程はいきなりすみませんでした。ヨリ戻したとか、何とか」

「ああ、いえ…こちらこそ気を遣わせてしまってすみません」

「もう一度確認させていただきたいんですけど、安尾さんて、高校の時一瞬だけ梅と付き合ってた方ですよね?」


「一瞬」という表現に思わず苦笑する。全くもってその通りだ。


「はい…一応」

「やっぱり!梅が男性連れてくるなんて意外だったので、驚きました。でもそっか、安尾さんて高校の頃話に聞いてただけだから、どういう人かなって思ってたんです」

「話とかしてたんですか?」

「梅、自分からはあんまり話さない子なので私が聞き出してました。梅の彼氏って大体目立つタイプだったので、話を聞かなくても大体どういう人か想像できるんですけど、安尾さんは謎で…」

「すみません、こんなやつで」

「いえ、話に聞いていた通り素敵な方で安心しました。そういう関係じゃないのはわかってますが、でも、もしこれからも梅と関わる事があれば、その時は梅の事よろしくお願いします」


朝子さんは丁寧に頭を下げた。

慌てて俺も立ち上がり頭を下げ返す。
ちょうどそのタイミングで彼女が席に戻って来たので、「どうしたの」と不思議そうな顔をして見ていた。



「もうちょっとゆっくりしてくでしょ?試作品のデザート食べていってよ」


先程もサービスで焼き菓子を貰ったのだが、更にデザートも出してくれるとの事で、朝子さんは店の奥へと行ってしまった。



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