たぶんこれを、初恋と呼ぶ
「安尾さん甘い物お好きでしたよね」
「あ、はい。……よく覚えてますね」
「覚えてますよ、それくらい」
ふふ、と彼女は笑った。
「それも」
「え?」
「付けてくれてるんですね」
何の事かと彼女の視線を追う。
「それ」は、俺の左手首にあった。
「これは…その」
未練がましいと思われるだろうか。
彼女に再会した日から、俺はほとんど毎日身に付けるようになった。
今までは勿体無いという思いと過去への戒めからここぞと言う時にしか付けないでいたが、今はこれを毎朝ネジを巻いて身に付ける事で、背筋が伸びるような気がして1日1日をしっかりと過ごせていると思う。
「大丈夫です、変な誤解はしません。安尾さん、物を大切にする人ですもんね。捨てないでいてくれて、ありがとうございます」
捨てないでいてくれて、と彼女の口から出た言葉に、動揺した。
捨てるわけがない。
捨てられるわけがないのだ。
「捨てるなんてありえません」
「…安尾さん?」
「ずっと大切にして来ました。これからも、ずっと大切にします」
気持ちが入って、いつもより少し大きめの声が出た。
彼女の目をまっすぐに見て言ったのは、未練がましいとかみっともないと思われても、少しでも自分の気持ちが彼女に伝わればいいと思ったからだ。
彼女の目は、揺れていた。
「…そろそろ帰りましょうか」
そう切り出したのは彼女からだった。
考えすぎかもしれないが、俺にはそれが、一歩引かれたように感じた。