たぶんこれを、初恋と呼ぶ


「……MSMさんの担当って、梅だったのか」

「…恭平こそ、ここに就職してると思わなかった」


騒がしい店の中で、彼女の声だけがやけにはっきりと聞こえた。



「え、百合川さんと八嶋さんてお知り合いなんですか?」


八嶋のすぐ隣に座っていた佐伯さんが怪訝そうに眉を寄せながら訊いた。


「あ、はい。高校の時の……知り合いです」

「なんだ、同級生だったんですか」

「……まあ」

彼女の言葉に、佐伯さんや八嶋を取り巻いている女性達が明らかにほっと安堵していた。
そして何事もなかったかのように元の空気に戻る。


「安尾さん、グラス空いてますよ。ビールでいいですか?」

「あ、ありがとうございます…」


彼女も何事もなかったかのように笑顔を作り、瓶ビールを差し出してきた。


八嶋とは地元が近く、何度か地元ネタで盛り上がった事がある。

その時に八嶋は俺と同じ高校出身だと聞いた。彼女は確か、その隣の高校に通っていた。


もやもやと変な感情が湧き出てくる。

彼女はどうして、そんな嘘をついたんだろう。


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